一言でいえば痛い映画だ。
えげつないヤクザの拷問シーンは目を背けたくなるほど痛そうだが、それより心が痛くなるのは、人生に迷う若者たちの哀しい物語だ。
僕もかつて望まぬ日常に埋もれるカスだった。
主人公・砧(妻夫木聡)は、役者志望のフリーター。だがとっくに役者への熱は冷めて、毎日パチスロに興じる自堕落な日々。あげくのはてには大きな借金を抱え、死体などいわくつきの荷物専門の「運び屋」になってしまう。
若い頃小説家志望のフリーターだった僕は、すでにこの冒頭のシーンで心がちくちくした。僕も彼と同じように、夢追い人という免罪符を掲げて、自堕落でどうしようもない日々をドブに捨てていたからだ。
パチスロは一度もやらなかったが、パチンコ店でバイトをしていたので、毎日彼のように死んだ眼をして通っている若者を何人も見てきた。
「望まぬ日常に埋もれるカスになるな」
運び屋のリーダー・ジョー(永瀬正敏)は言う。今現在の自分が望む姿でないのなら、それを打破するための劇的な行動が必要だと、僕もかつての自分や若者に言ってやりたい。
でも馬鹿な若者に限って、人生は永遠に続くような錯覚を抱いているから、望まぬ日常に埋もれてしまうのだ。
道に迷った若者への痛烈でやさしいメッセージ
この映画には(正確にはこの映画の原作のコミックなんだろうけど)、望まぬ日常を生きる若者たちへの強烈なメッセージが充ち満ちている。
「今までしてきたことが、今日のお前の結果だ」
人生のあらゆることはすべて自分の選択で決まっている。どんな不幸があろうとも、不幸であり続けているのは自分の責任だ。
「いろんなことを怠けていると、年とってからでっかいツケがまわってくるぞ」
若いうちは世界がクリアに見えないから、それがわからない。
「前向き?お前どっちが前だかわかってんのかよ?」
何をしたいのか、何をしたらいいのかわからない若者は、一歩を踏み出せない。
「なぜ何も言わない?言いなりは楽か?誰からも嫌われたくないからか?私は自分の居場所を作るために、争いを避けたりしない」
楽な方へとばかり流されていると、人は自分の居場所を失ってしまう。
「ここは暗いけど、まだ完全な闇じゃない」
望まぬ日常は辛いかもしれないけど、まだ人生は終わっていない。生きていれば、必ずチャンスはある。
「本気の嘘をつき、真実にしてしまえ」
今こそ立ちあがろう。望まぬ日常をぶちこわそう。
永瀬正敏の無骨な演技がかっこいい。
物語に登場するのは、そういった底辺の人間たちの他に、超人的な殺し屋やサディスティックな変態ヤクザなど、現実離れした世界ではある。
スーパースローを多用したアクションシーンや、殺し屋同士の殺陣など、目を見張る演出も多い。
最強の殺し屋・背骨を演じる安藤政信にはオーラが見えたが、狂気は宿っていなかった。
高嶋政伸のキャラはあまりに滑稽だったが、楽しそうに演じていたのでよしとしよう。
満島ひかりはさすがの一言。どんな役をやらせてもなりきってしまう。
永瀬正敏・松雪泰子・小日向文世などのベテラン勢が作品を安定させているが、全体的になかなかの豪華キャストなので、そのへんも楽しめるだろう。
映画としての出来はまあまあだが、原作コミックの作者の熱い気持ちは伝わってきた。原作は一巻完結なのでKindleで購入してみた。読むのが楽しみだ。65点。
ここは暗いけど、まだ完全な闇じゃない。生きていれば、必ずチャンスはある。