漫才ブームとかの若い頃のお話がすっごくおもしろくてね。
(前略)そんな風にして、俺はひたすら芸を磨き上げていった。
月並みな言葉で言えば、夢中で漫才をやっていたっていうことなんだろう。
だけど、必死で頑張って、いつか人気者になりたいとか、売れる芸人になりたいというような、夢を抱いてたわけじゃない。
売れていない時代は、売れる売れないは問題じゃないのだ。
それは全然違う次元の話で、その当時は、喰えるか喰えないかで精一杯。明日、漫才の仕事があるかないか、それだけしか考えていなかった。
営業で歌手の前座の仕事が来ると、何万円かの現金が手に入る。
「ああよかった、これでアパート代払える」
そういう生活だった。
引用元:『全思考』北野武
オレにとっての若い頃のたけしさんのイメージって
「どでかい野望を抱いてのし上がることだけを考えていたイケイケ芸人」
って感じだったんだよね。
もちろん根っこにはそういうところがあったんだろうけど、現実的にはそれよりも、のし上がるとかなんとか言う前に、明日喰えるか喰えないかっていう綱渡りの綱の上で、夢中になってただけなんだねえ。
オレも気づいたらすぐ、人気者になりたいとか、売れてお金ガッポガッポとか考えちゃうけど、やっぱそういう不純物から解き放たれたときに、なんか降りてくるし、いいモノが書けるし、人の心がわかるのかもね。
たけしさんも言ってるけど、今は何でもあるし、食い物の心配より体重の心配だし、なかなか死ねないから、夢中になるってむずかしい。
ごちゃごちゃ言ってないで、何かの変態になって、夢中になったらいい。