コラム/エッセイ

世の中のすべての唐揚げはおいしい。

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ぼくの友人に鶏の唐揚げが大好きな男がいて、彼に一度訊いてみたことがある。

「今までで一番おいしかった唐揚げってどういうの?」

彼はすこし驚いたような顔で言う。

「いや、唐揚げは全部おいしいんだよ」

「そうじゃなくて、あの店の唐揚げが絶品だよとか、隠し味に何かを入れるとおいしくなるとか、そういう意味でさ?」

彼は照れたように笑って言う。

「うん、言いたいことはわかるけど、そうじゃなくて、唐揚げはすべておいしいんだよ」

彼は鎌倉で歯科医院を営んでる立派な男だ。虫歯を治療するだけの歯科医療に疑問を抱き、虫歯にならないように生活をする予防歯科医療を模索し、腔内だけでなく身体全体の健康バランスを研究する、勉強熱心で情熱に溢れていて、イケメンでサーファーで爽やかで、ロジカルでスピリチュアルで、友人としても尊敬してしまうような好青年である。

そんな非の打ち所の無いような彼だが、唐揚げの話になると、唐突に論理が破綻する。

彼の話によると、どこそこのお店の唐揚げが好きだとか、にんにくをたっぷり効かせた唐揚げが好きだとか、トッピングに大葉と大根おろしとポン酢が合うとか、そういう余計な付加価値なんかとっくに超越していて、とにかく唐揚げが好き、なのだという。「とにかく」という言葉が出てきては、論理もへったくれもない。

そしてたしかにそう言われてみれば、何かを好きになる、ということに理由なんていらない。なんで好きなの?なんて訊くのは野暮としか言いようがない。

ぼくにも、彼にとっての唐揚げほどに愛しているものがあるだろうか?

しばらく考えて出てきたのは、ちょっと変だけど、Appleとチョコレートケーキとノラ・ジョーンズあたりだった。

アメリカ映画で育ったぼくにとってコンピュータやデジタルというのはAppleのことを差すのであり、ジョブズ亡き後これからどれだけクソみたいな製品が出てきても、ぼくは苦笑して許してしまうだろう。どれだけクソでも、Appleのつくるものである限り。

同じように、チョコレートケーキもだいたいは許せるし、ノラ・ジョーンズがどうしてもファースト・アルバムを越えられなくても、血迷ってギターを手に取ってしまっても、彼女のスモーキーな歌声がぼくの人生から消えることはない。

良し悪しとか関係なく、何があろうと許せるものを持っていると、人生は心地よい。それが人であれば、毎日はとても暖かくなる。許していると、自分も許される。

世の中のすべての唐揚げはおいしい。あなたにもそういうの、ありますか。

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