コラム/エッセイ

世の中のすべての唐揚げはおいしい。

IMG 0308

ぼくの友人に鶏の唐揚げが大好きな男がいて、彼に一度訊いてみたことがある。

「今までで一番おいしかった唐揚げってどういうの?」

彼はすこし驚いたような顔で言う。

「いや、唐揚げは全部おいしいんだよ」

「そうじゃなくて、あの店の唐揚げが絶品だよとか、隠し味に何かを入れるとおいしくなるとか、そういう意味でさ?」

彼は照れたように笑って言う。

「うん、言いたいことはわかるけど、そうじゃなくて、唐揚げはすべておいしいんだよ」

彼は鎌倉で歯科医院を営んでる立派な男だ。虫歯を治療するだけの歯科医療に疑問を抱き、虫歯にならないように生活をする予防歯科医療を模索し、腔内だけでなく身体全体の健康バランスを研究する、勉強熱心で情熱に溢れていて、イケメンでサーファーで爽やかで、ロジカルでスピリチュアルで、友人としても尊敬してしまうような好青年である。

そんな非の打ち所の無いような彼だが、唐揚げの話になると、唐突に論理が破綻する。

彼の話によると、どこそこのお店の唐揚げが好きだとか、にんにくをたっぷり効かせた唐揚げが好きだとか、トッピングに大葉と大根おろしとポン酢が合うとか、そういう余計な付加価値なんかとっくに超越していて、とにかく唐揚げが好き、なのだという。「とにかく」という言葉が出てきては、論理もへったくれもない。

そしてたしかにそう言われてみれば、何かを好きになる、ということに理由なんていらない。なんで好きなの?なんて訊くのは野暮としか言いようがない。

ぼくにも、彼にとっての唐揚げほどに愛しているものがあるだろうか?

しばらく考えて出てきたのは、ちょっと変だけど、Appleとチョコレートケーキとノラ・ジョーンズあたりだった。

アメリカ映画で育ったぼくにとってコンピュータやデジタルというのはAppleのことを差すのであり、ジョブズ亡き後これからどれだけクソみたいな製品が出てきても、ぼくは苦笑して許してしまうだろう。どれだけクソでも、Appleのつくるものである限り。

同じように、チョコレートケーキもだいたいは許せるし、ノラ・ジョーンズがどうしてもファースト・アルバムを越えられなくても、血迷ってギターを手に取ってしまっても、彼女のスモーキーな歌声がぼくの人生から消えることはない。

良し悪しとか関係なく、何があろうと許せるものを持っていると、人生は心地よい。それが人であれば、毎日はとても暖かくなる。許していると、自分も許される。

世の中のすべての唐揚げはおいしい。あなたにもそういうの、ありますか。

関連記事

  1. コラム/エッセイ

    フジテレビをおちょくるなよ。FODに紐解くドラマ黄金時代の輝き。

    俺が若い頃は、テレビをつけたらまず必ずフジテレビにチャンネルを…

  2. コラム/エッセイ

    僕のバスケットボール・ダイアリーズ。

    Basket / BigTallGuy中学も高校もバスケ部だったけ…

  3. コラム/エッセイ

    いちばん怖いのは、夢が叶うことなんだろ?『8 mile』

    『8 mile』って、世界的ラッパー・エミネムの生い立ちみたい…

  4. コラム/エッセイ

    ドロボーさんが財布を返しに来てくれた話

    先日、夫婦で散歩がてら銀行へ行ったときのこと。家内がA…

最近の記事

〈note〉エッセイやコラムはこちら


月別の過去記事

  1. キャンプ/アウトドア

    バイク&キャンプシーズン到来!春の朝霧高原ツーリングとキャンプ場下見レポ。
  2. Apple/Mac

    iPadを360度回転できる!持ち運びにも安心でスタンドとしても絶妙なケースをゲ…
  3. キャンプ/アウトドア

    【キャンプレポ2013夏2】我が愛しの道志の森(2nd DAY)プールで大はしゃ…
  4. プロのカンタンレシピ

    おいしくカンタンに夏バテ防止!豚肉の塩麹焼きの作り方
  5. グルメ

    【レシピ】ゴマたっぷり!クリーミーで美味しい豆乳鍋の作り方☆
PAGE TOP