コラム/エッセイ

湯を沸かすほどの熱いメッセージ

 毎朝、白湯(さゆ)を飲む。

 歯を磨きながらヤカンで湯を沸かして、コップいっぱいの野菜ジュースを飲み干してから、沸騰した湯を大きめの水筒に入れて、書斎でiMacに向かいながらちびちびと啜るのが、朝食であり日課である。
 アーユルヴェーダがどうとか身体への効能はどうだったかというのは忘れてしまったけど、もう何年も続けているせいか、午前中に白湯を啜らないと胃腸の調子がよくない。逆にどんな災難や気枯れや暴飲暴食が続いても、白湯さえ飲めば疲弊した胃腸もやがてぎゅるるるると音を立てて少しずつ動き出し、前日までに取り入れたアルコールやニコチンや脂肪やストレスなどの毒を尿や便でどんどん排出してくれるのである。したがって僕のような自堕落な人間がどうにか今日まで生き延びているのは白湯のおかげであり、これからも湯を沸かすことさえできれば僕はどのような環境をもサバイバルできるのではないか、などと、朝の呆けた頭で馬鹿げた妄想をしてしまう。

 それはさておき、こうやって毎朝欠かさず湯を沸かしている身としては、昨今流行りの「電気ケトル」という製品に対しては否定的、というか猜疑的な見地に立たざるを得ない。たかがお湯を沸かす、ということのためだけに、かの大震災の際には全国規模の計画停電までして大切に扱った「電力」というものを使うのはいかがなものか、湯が沸けばあのけたたましい笛の音がピーヒャララと耳をつんざいて教えてくれる昔ながらのヤカンのほうが日本の朝の情緒があっていいじゃないか、などと僕の脳内の偏屈オヤジがのたまうのである。ちなみに「のたまう」というのは尊敬語である。どうでもいいわ。

 ところが最近、実家で母が便利に電気ケトルを使う場面を目の当たりにしたり、まわりの友人たちが何の疑いもなく使っているのを見ているうちに、ほほう、電気ケトルというのはヤカンのように見張っていなくても、あのうるさい笛音にいちいちびくっとして肝を冷やさなくても、放っておけば湯を沸かし終えて静かに待っていてくれる健気なやつなのか、などという誰もがはじめから理解している製品の本質をようやく理解し、イタリアのスタイリッシュな家電ブランドのクールな製品があると知ったりするうちに、いやむしろ毎朝湯を沸かす僕のような人間こそ、この電気ケトルという文明の利器をより活用するべきではないか、などとまったく逆の結論に至ったのである。

 ということで、やたらと前置きが長くなったが、これは引越の際にぜひ手に入れたいとAmazonの欲しいモノリストに追加しブログで公開したところ、さっそくお湯も滴るいい男だと自他共に認める友人が引越祝いとしてプレゼントしてくれたのである。送り主の名を見て思わずにんまりとしてしまったのだが、思い返してみれば僕は以前彼の何かのお祝いに電気ケトルを贈っていたのだ。今日まで数多くの素敵な友人知人に恵まれてきた僕だが、電気ケトルを贈りあった友というのは彼だけであるから、何やらお湯には流せない強い縁を感じてしまう。

 引越祝いの贈り物が嬉しかったのはもちろんだが、しばらく気枯れをして茅ヶ崎に引きこもっていた身としては、湯を沸かすほど熱い彼からのメッセージが何より僕を喜ばせた。僕もこれから人に何か贈るときは、添えるメッセージにもっと心を配ろうと思った。僕が書いたものが、誰かの心を温める湯になればさいわいである。

引越を祝ってくれる素敵な方はこちらからどうぞ http://amzn.asia/fkpqoGv

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