『アナログ』っての、本屋で見かけたんで思わず手にとって、その日のうちに読了しちゃったんだけど。
ぶっちゃけ、やっぱり本業の作家じゃないから、文章も展開もつたないなって感じた。
そんな風にうまくはいかないだろ、とか。
そんなわかりやすい状況説明文はないだろ、とか。
まるで小説作法に則ってねえじゃねえか、なんて。
でも読みすすめていくうちに、どんどん引きこまれていく。
場面の切り替わりや、登場人物のやりとりなんかが、やたらとリズミカルで小気味よいのは、さすが映画監督が書いた小説、といった感じか。
いわゆる、よくできた模範的な小説、ではないんだけど、文章とか展開とかの細部はともかく、全体としてちゃんと読ませる物語が仕上がってる。「純愛」「お笑い」「親子愛」みたいな軸が、シンプルに、余計な枝葉をつけずに、まっすぐ展開する。
今さら言うことでもないけれど、このビートたけしという天才は、オールマイティな強さと魅力があるんだよな。
数学がめっぽう好きらしく、そういう理系の合理的な思考をベースに、人を惹きつけるアナログで文学的でほろりとさせる情緒なんかを乗せるのがうまい。
漫才でも、映画でも、こういう小説でも、打算と感性のバランスがいいっていうのかな。
これが名も知らぬ小説家の恋愛小説だったら、そんなに響かなかったかもしれない。ビートたけしだから読んだ、ってのはもちろんある。
でもまあ、日本テレビ史において最高のスターにして希代の世界的映画監督が書いた純愛小説、というのは、それだけでいいじゃないの、って思っちゃう。
意地悪な見方をすれば、ここはあの小説からインスパイアされたな、とか、このへんのくだりはあれをパクったんじゃねえか、なんて邪推もできるんだけど、たけちゃんの場合は、そういうのがマイナスに感じられないんだよね。
いいとこパクって何がわるいんだバカヤロウ!文句あんならやってみろコノヤロウ!
っていう「気概」こそが、たけしさんのいちばんの魅力じゃない?
「又吉が芥川賞獲ったから、俺は直木賞だ。太宰みたいに選考委員にかけあうか。林真理子とか」なんてうそぶく天才たけしは、本気出せばなんでもできそうで怖い。
ともあれ、このストレートで古くさい恋愛物語を、映画監督としてどう料理してくれるのか、今から楽しみでしょうがないね。コマネチ!
「スマートフォンは嫌い。IT産業が世界中の人間に手錠をかけたと思ってる。便利だけど、貧富の差が開いたことへの影響も感じる。デジタルを多用した映画はどれも似てくる。なるたけアナログで行きたい」
ビートたけし