Yoga
Yoga / Jean Wichinoski Fotografia
家人がまだハードな介護の仕事をやっていたとき、彼女の左手の親指の付け根が痺れるようになった。首から肩にかけてまでにもずっと張りがあって、うがいをするために上を向いても激痛が走る。

働いている病院の整形外科を受診すると、欧米の血が入った白髪のおじいちゃん先生は、家人の話を聞いた後、すこし片言の日本語で言ったという。

「あなたの右腕には三人のお子さんが乗っています。あなたの左腕には仕事が載っています。とても大変な仕事です。これがどういうことかわかりますか?」

先生はやさしい瞳を細めてつづけた。

「あなたは、もう何も持てないんです。育児と仕事を両腕に抱えたあなたは、立っているのが精一杯のはずです。だけど、家のこともやらなくてはならないでしょうし、休みの日には遊びたいでしょう。日常生活には悩みや問題もあるかもしれません。ギリギリの姿勢で踏ん張っている人がこれ以上荷物を持ったら、身体は悲鳴をあげる。その声があなたが今感じている痛みです」

僕はこの話を聞いて唸ってしまった。たしかに先生の言うとおり、病気やケガには必ず理由があり、痛みというのは身体からのSOSサインなのだ。お医者さんというのは、治療を助けてくれるだけで、治すのは自分自身なのだ。

ソフトカイロプラクティック高橋治療院の高橋伴和さんが書かれた『からだとこころの“ストレス”が消える 姿勢力』という本を読んで、身体について、あらためて根本から考えさせられたので紹介したい。

姿勢が悪いと自然治癒力が流れない。

Bondi Beach Yoga
Bondi Beach Yoga / tarotastic
お医者さんは骨折を治してくれない。ギプスや適切な処置を施して、骨がくっつきやすい環境をつくってくれるけど、治すのは自分自身の自然治癒力だ。そして自然治癒力はふだんの姿勢と大きく関係している。

自然治癒力は、背骨の中を通る脊髄神経(せきずいしんけい)の中を流れているので、姿勢が悪いと、骨格がずれて神経を圧迫し、自然治癒力の流れが悪くなってしまう。

骨がずれて隙間が狭くなると神経を圧迫するので、筋肉の働きが悪くなる。これがコリや痛みの正体だ。腰を丸めて座れば腰の脊髄神経が圧迫されて腰痛になり、下を向いて読書をすれば首の脊髄神経が圧迫されて肩こりになる、といった具合に。

肩こりや腰痛などの症状は、その部位だけが悪いんじゃなくて、身体全体に自然治癒力が行き届いていないということなんだって!

上からのゆがみと下からのゆがみ

Charlotte Stuart doing pain reduction procedure, Nelson, New Zealand
Charlotte Stuart doing pain reduction procedure, Nelson, New Zealand / Wonderlane
骨盤のズレから生じる身体のゆがみは、日常的な姿勢の悪さが原因の「下からのゆがみ」に加えて、やっかいな「上からのゆがみ」の両方の組み合わせであることが多いという。

忙しかったり考えることが多すぎて脳がオーバーワークになったり、パソコン作業などで目を酷使したり、心にモヤモヤがあってマイナスのことばかり考えていると、脳が誤作動を起こして身体全体を緊張させてしまう。そんなふうに筋肉の収縮が続くと、そこにくっついている骨格が歪んでしまう。これが「上からのゆがみ」だ。

上からと下からの両方のゆがみがあると、良い姿勢を保つのが苦痛になり、姿勢がどんどん崩れて、症状がひどくなる悪循環に陥ってしまう。

自然治癒力の流れを邪魔する身体のゆがみを改善するためには、普段から正しい姿勢を保つだけでなく、脳と心もすっきりと、健やかに元気にすることが大切だ。

あなたは腰痛タイプ?肩こりタイプ?

Each Day
Each Day / tonyhall
身体のゆがみや痛みを訴える患者さんは「腰痛タイプ」と「肩こりタイプ」に分けられる。自分がどちらのタイプなのかを把握しておくと、姿勢や生活に気をつけるのに役立つだろう。

腰痛タイプ

疲れるとすぐに腰が痛くなる・アウトドア派・明るく社交的・活動的で暑がり・ストレスに強い・漢方でいう「陽性体質」

肩こりタイプ

疲れるとすぐに肩がこる・インドア派・繊細で慎重・気疲れしやすく敏感・寒がり・ストレスを溜めがち・漢方でいう「陰性体質」

ちなみに僕は完全な「肩こりタイプ」。疲れるとすぐに首や肩が張ってしまうんだけど、肉体的疲労というよりは精神的疲労のほうが大きいなという実感がある。

本書に詳細なチェック項目があるので、興味のある人は読んでみてくださいよ。

ストレスやこころのモヤモヤが肩・首筋のコリをつくる。

Chiropractor
Chiropractor / drweisgerber
「上からのゆがみ」が原因の肩や首筋のコリは、悩みや心配事、ストレスが原因になっていることが多い。たしかに僕も首や肩が張るときは、身体が疲れているというよりは、心配事や解決すべき問題が山積みになっている状況が続いてしまったときだ。

整体師やカイロプラクティックの先生が心理カウンセリングを行うのは、上からのゆがみを改善するための治療だったんですね。

中には悩みを話すだけでコリが軽減する人もいるそうだが、逆に治療をして身体がゆるんでも、嫌なことを思い出した瞬間にガチガチになってしまう人もいるという。唐突に過度の緊張状態になると、肩がピキッと固まったり、胃にギュッと痛みが走った経験は僕にもある。

身体のゆがみを改善して健康な状態になるには、筋肉をほぐすだけでなく、脳の緊張をほぐすためにストレスを解消することが大事なのだ。

学びと実践

yoga attempt
yoga attempt / tiarescott
この本から僕が学んで、日常生活に取り入れたこと。

学び

  • 胃がもたれたり、痛くなったり、下痢や便秘をするのは、首肩のコリに原因がある場合がある。
  • くすぐったくて肩のマッサージを受けられないのは、近くの骨がずれて神経が過敏になっているから。
  • 楽しいことを優先しよう
  • 眼球体操(眼球を動かす筋肉の緊張をほぐすことで、脳の緊張をほぐす)目だけ上に動かし、天井を十秒くらい強く見る。
  • 首を前後に動かす。首をそらせたまま鼻先を左右に動かす。

簡易リラックス法

すべての時間を夢や目標に向けて使うようになってから、リラックスするのが下手になった。ソファに横になっても、ブログややるべきことのことを考えてしまうのだが、身体を意図的にゆるませることでだいぶリラックスできるようになってきた。

  • 拳をギュッと握りしめて、両肩を上につり上げて、身体全体をめいっぱい緊張させて息を止める。数秒したら、パッと全身の力を抜いて息を吐くと、リラックスの感覚がわかる。
  • 口を大きく開けて、舌をいっぱい出して息を吐き出す。
  • ヨガや瞑想をする。

自然治癒力を促進する「7つの生活習慣」

  1. 24時間正しい姿勢を身につける(からだ全体がゆるみ、自然治癒力の流れが良くなる)
  2. らくらくストレッチを習慣にする(入浴後や就寝前にストレッチをして一日の疲労を取る)
  3. ほぐし運動をする(ウォーキングやヨガなど、軽く身体をほぐす運動を日常に取り入れる)
  4. 休養と睡眠でしっかり怠ける(休日はしっかり休む)
  5. 寝る直前は目を休める大事な時間(目を休めて副交感神経を優位にする)
  6. 昔ながらの健康法(「早寝早起き、腹八分」飲みすぎ、食べすぎ、睡眠不足、不摂生を控える)
  7. 痛みが出たらがんばらないテクニック

姿勢に気をつけるだけで効果が出てきた。

Back Pain
Back Pain / Andreanna Moya Photography
僕は子どもの頃からひどい猫背で、骨盤もずれていて、左右の足の長さも違う。いつかは整体の先生に見てもらいたいと思っていたんだけど、マッサージをされるとくすぐったく感じてしまうので、診療に行って笑いころげていてはバカみたいだからと、なかなか行く機会がなかった。

だけどそのくすぐったいというのも、どうやら骨がずれているのが原因だというから、ちょっと真剣に身体と向き合ってみることにした。

この本を読んでからいろいろ日常で気をつけるようになったけど、中でも「24時間正しい姿勢を意識する」というシンプルなことが、いちばん簡単ながら大変で、いちばん効果が出ているように感じる。

キッチンテーブルに座ってパソコンに向かうとき、ソファに座るとき、書斎の座椅子に座るとき、車の運転席に座るとき、オートバイにまたがるとき、歩くとき、走るとき、そして寝るときでさえも。すべての時間に姿勢を意識するようになったら、自分がこれまでどれだけひどい姿勢で生活していたのかが痛いほどわかった。

こんだけ身体を無理な形にねじ曲げていたら、そりゃあ神経も悲鳴をあげるだろうよ。

正しい姿勢の取り方はかんたんなステップで誰にでもできるので、ぜひ本書を参考にしてください。正しい姿勢とは、長時間継続していても楽な姿勢のことであって、無理して身体をまっすぐにする必要はありません。背骨がS字になっていることを意識するといいようです。

この本を読んでたら、著者の高橋先生に身も心もまかせてしまいたい気分になってきたので、ヒマを見つけて一度診療にいってみようと思ってます。