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生きることについて語るときに、僕の語ること。

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連休最後の日の夕方に、書斎の断捨離をしていたら村上春樹さんの『走ることについて語るときに僕の語ること』を見つけたので、すこしだけ読んでみた。第二刷発行2007年となっているので、じつに六年ぶりの再会だ。

前書きにつづいて、懐かしい淡々とした文章が水のようにすっと心に沁みいってくる。

カウアイ島の夏は天国みたいに心地よくて、ケンブリッジの蒸し暑さは拷問なみらしい。いつの間にかマラソンよりもトライアスロンに惹かれるようになったり、四十代の中頃を過ぎてからはタイムが伸びなくて、ゆるやかな倦怠期が訪れたり。

チャールズ河の水の流れの描写を読んでいるうちに、さっきまでざわついていた気持ちが、音もなく降り積もる雪みたいに心の底に落ち着いていった。

そういえばここ数年の僕は、いつも何かに追われているような気持ちで生活していたような気がする。Facebookに遠くの友人たちが書きこむ近況や最新のニュースやライフハック術、今日やるべきエクササイズに読書に家事育児に今日の反省に明日の計画、そういった日常の雑事がいつも背後に迫っていて、ゆっくり小説やエッセイを読む時間はほとんどなかった。

なぜなら僕は数年前から、日常や生活、ひいては人生全体を変えるために、より合理的で効果的な方法論や習慣を身につけて、半ば自動的に毎日を暮らしていけるようにシフトチェンジしたからだ。効率や結果を重視するようになると、娯楽の時間はおのずと減っていく。

久方ぶりにこうして慣れ親しんだ小説家の文章を数ページ読むと、以前のよりゆるやかだった頃のことを思い出す。

あの頃は自分を成長させるための良習慣とか、コツコツ努力するなんてこととは無縁で、むしろだせえとか言って馬鹿にしていたくらいで、春樹さんをはじめとした好きな小説家の語る真実の言葉とか理想的な人生を夢見ながら、けっきょく何もせずに動かずにいた。蠅取り紙に捕まって身動きが取れなくなった蠅みたいに。

今はあらゆる時間を自らの成長と家族の繁栄、ささやかな夢の達成に向けて使うようになったけど、その代償に、物事をじっくり考える時間を失ってしまったような気がする。

暮れる夕陽を眺めながら、ビーチで海風に吹かれながら、深い夜にワインに酔いながら、僕にとって本当に大切なことは何なのだろうと、幸せって何なのだろうと、あいかわらず思春期の高校生みたいにぼんやりと考えることだって、生きる上では欠かせないのだと。

成功している他人の方法論を模倣したり、最新の学説やライフハック術を学んで実践することは効果的だけど、それらが必ずしも僕という個人の幸せに繋がるかと言えば、もちろんそんなことはない。

幸せにはいろんなかたちがあるという、そんな凡庸な言葉を、今さらながら噛みしめるのだ。

だからどうこうと言うわけではないんだけど、毎日のキツキツのスケジュールをうまくやりくりして、小説やエッセイを読む時間も設けていきたい。

フィクションや随筆というのは、現実から逃避するものではなくて、世界にある幾通りもの価値観や現実を知るためのものだ。

僕は生きるための目先のテクニックばかりに目を奪われて、その根幹にあるべき価値観や生き方のスタイルを磨くことを、忘れていたのかもしれない。いいことを思い出せた。今日は早めに寝よう。明日は明日の風に身をゆだねよう。

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