こころハック

海辺のカラス男は「助けて」と言わない。

IMG 4532

海辺の散歩道でカラスに餌付けをしているおじさんがいた。

路地裏の猫や七里ヶ浜のトンビにエサをやっている人は見たことがあるけど、カラスにエサをやってる人ははじめてだ。

それにそこは子どもたちだって通る道だから、餌付けなんかしてカラスが居着いてしまったら危険きわまりない。

そんなふうに考えながらも一度は通りすぎちゃったんだけど、さんぽの帰りにまだおじさんがいたら、今度こそ注意してやろうと思っていた。

そういえば数日前に、ちょうどあの辺でカラスに囲まれて傘を振りまわしてるおじさんがいたじゃないか。あれはきっとカラスに襲われたにちがいないよ。あのおじさんは傘を持っていたからいいけど、小さな子どもや赤ちゃんだったらケガをしていたかもしれない。

その先の漁港でひきかえして戻ってみると、残念ながらおじさんはまだそこにいて、パンだかなんだかを紙袋から出してはカラスに与えていた。

僕は本当に腹が立ってきて、声をかけようとおじさんの顔を覗きこんだ。けどその場で固まっちゃった。

おじさんは笑ってたんだ。

口だけが笑いのかたちにくいっと曲がってるけど、目は笑っていない。僕は知ってるよ。これは泣いてる顔だ。泣き方を忘れた大人が泣いてるときの顔だった。

僕はなんとなく、そのままその場を離れてしまった。

おじさんは大きな紙袋と汚い傘を持っていた。ああ、カラスに襲われていたのはあのおじさんだったのか。自分でエサをあげておきながら、カラスを追い払っていたんだ。

よくわからないけど、胃のあたりがきゅっと締めつけられた。

さっきまでは、あのおじさんは絶対に許さないと激しい憤りに拳を握っていたのに、全身から力が抜けてしまった。

僕はそのとき、史群アル仙さんの漫画を思い出した。

おじさんだって好きでカラスに餌をやってるわけじゃないもんな。カラスに囲まれて喜ぶ人なんていないよな。

僕はあのおじさんを注意するべきだったかもしれないけど、できなかった。いちばん辛いのはおじさんだって気がしたからだ。

人には、自分でもどうしようもないってことがある。そして誰かを傷つけるのは、いつだって誰かに傷つけられた人だから。おじさんが海に癒やされることを祈って、ふがいない僕は家路を急いだ。

関連記事

  1. 書籍/小説

    イラスト投稿サイトから夢を叶えた男!『ハナムラさんじゅっさい』(コミック全巻無料)

    「最近は無料で読める電子コミックがけっこうあるらしい」というの…

  2. コラム/エッセイ

    レモンの香りのビールと残飯シチュー。

    先日、近所に串カツ屋さんができたというので、さっそくママちゃん…

  3. コラム/エッセイ

    見下すピートじいさんは見下される。

    イチローが日米通算4257安打を達成して、単独で歴代最多安打世界一にな…

  4. ライフハック

    ランニングは身体のバロメーター

    先週はお酒を飲む機会が多かった。それでも午前中はバリバ…

  5. コラム/エッセイ

    ひとつ終わって、ひとつ始まる。

    親父が三十五年やってたお店が閉店してね、過日クロージングパーティみたい…

  6. グルメ

    どろっどろのほうとうに溺れる暴食の夜。

    そんな豊かな我が国において、いくら金を積んでも食べられないものが、唯一…

最近の記事

〈note〉エッセイやコラムはこちら


月別の過去記事

  1. キャンプ/アウトドア

    【MERRELL】雨の日も安心!!チョーCOOLな防水トレッキングシューズ「カメ…
  2. 映画

    この発想なかった!伝説のゲームが映画になっちゃったような『ハードコア・ヘンリー』…
  3. 夢を叶える

    根性なしの僕がはじめて見た限界の向こう側。
  4. 名言

    遊びの天才・所ジョージさんに学ぶ!「人生を楽しむための珠玉の名言集」
  5. コラム/エッセイ

    その朝北海道の静かな山奥のぼっとん便所で、僕の頭に入ってきた何か、について。
PAGE TOP