コラム/エッセイ

ちょいちょい休んで、ちょいちょい登っていく___人生は夫婦登山のようなもの。

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山登りって人生みたい。

前に『メルー』っていう登山映画を見たとき、山登りって夫婦生活みたいじゃないか、ってつくづく思ったんです。梅雨の合間にママちゃんと二人きりで丹沢大山に登って、そのことをあらためて思い出した。

二人で山を登るときは、自然と元気なほうが先を歩く。ときおり後ろを気にしながらも、お互い自分自身のペースで。

休みたくなったら、先行者に声をかける。大山は思ってたよりずっとハードだ。でもこれがなかなかむずかしい。勇気を出して言う。「ちょっと休憩させて」

僕ら夫婦はこれまで、この「ちょっと休憩させて」が言えなくて、お互いに苦しんで、お互いを苦しめてきた。バカみたいだけど本当の話だ。

「疲れた」が言えなくて、相手の足を引っぱる。

仕事に疲れた。育児に疲れた。人間関係に疲れた。生きてりゃ当たり前に疲れるのに、疲れたら休む以外に方法はないのに、「休ませて」が言えなくて、無理してがんばって、勝手に傷ついて、イライラを溜めて、最終的には相手の足を引っぱる。

今は、苦しくなったら正直に言えるようになった。まだまだカッコつけちゃう場面はあるけど、それにカッコつけるべき場面も必要だけれど、本当に疲れたら、休もうと言えるようになった。

昔はきっと、疲れてもがんばる俺がカッコいいと思ってたし、ママちゃんに「今日は疲れたから家事と育児を休ませて」なんて言われても、「こっちだって忙しいんだよ!」なんてはねのけちゃってたかもしれない。

でも山ではそれが命取りになる。

疲れてるのに無理して歩を進めれば、足をくじいて動けなくなる。登るどころか下ることもできなくなって、その場で止まってしまう。僕らはお互いに心が雨漏りして、「鬱」という大ケガで社会から断絶して、人生という山の中腹で動けなくなった。

もうあんなしんどいのはイヤだから、カッコつけたくなっても言う。「ちょっと休ませてよママちゃ〜ん」と、照れ隠しにすこしおどけて。

カッコつけると腹が立つんだよな。俺はがんばって苦しいのに、なんで気づいてくれないんだよって。そうやって先を歩く背中を睨んでいたっけ。

ちょいちょい進んでいく。

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人生も山登りも、ちょいちょい休んでいったほうが、最終的には遠くへ行けるんだよね。ちょいちょい水を飲んで、ちょいちょいその辺に腰掛けて、ちょいちょい靴紐を結びなおして、ちょいちょいいけたら、どんどん進んでる。

最近、『一歩ずつの山歩き入門』っていう女性向けの本を僕も読んでるんだけど、この著者が「ちょいちょい」で確実に進んでいくスゴい人でね。

もともとすんごい運動音痴で体力もなくて登山なんてムリムリっていうタイプだったのが、すこしずつ、一歩ずつ、自分に合ったアウトドアギアを揃えて、自分なりの工夫をして、自分のペースで山を歩いて、今や穂高岳なんて登っちゃうんですね。穂高って冬は死ねるレベルのアルプスですよ。

この人の山に対する姿勢を見ていると心が楽になる。自分のペースで生きてる人って素敵だなって思う。そしてそれは、自分の弱さを受け容れてるからなんですよね。

生きてりゃ疲れることもありますよ。そんときに、疲れたほうはすこし寄りかかって、元気なほうが引っぱってあげる。それを繰り返しながら生きるのが夫婦登山のいいところじゃないですか。だからお互いに疲れちゃダメなんですよ。ね。

あと山を登ってると思うのは、山にわるい人はいないですね。みんなやさしいし、みんな穏やかに笑ってる。海にはけっこうわるい人いますけどね笑。

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