Sunset Through Window
Sunset Through Window / Mingo.nl

夕方の四時頃に、家内が書斎に入ってきました。

高校受験を控えた長男の三者面談があるのだが、志望校をどうするか、私立校を併願するかしないかといった最終判断を決めたい、という。

以前からその話はしていたので、大筋ではどうするのか決まっていたのですが、あらためて夫婦会議を始めました。

けれど僕はそのときひどく疲れていて、しかも根をつめた作業を終えてから、大切な勉強をしている時間だったので、僕の発言はいつの間にかトゲのある物言いになってしまっていました。

まったく別の勉強のことで頭がいっぱいだったこともあり、「そういう子どもの将来を決めるような大切なトピックは、今すぐに答えは出せない、明日の朝までに考えるから」と言って無理やり話を切りあげてしまいました。

僕にも家内にもそんなつもりはないのに、ケンカ別れをしてしまったみたいな雰囲気になって、お互いに暗い表情で話は終わりました。

家内が書斎を出ると、僕の頭は混乱していました。

もう勉強も手につかない。かといって家内と話す気にもなれません。いらだちと困惑で頭がぐるぐると回るので、ベッドに潜りこもうかとも考えました。

暗いところで小説や映画の物語に逃げこめば、だんだんとまた落ちついてくるのはわかっていたからです。

けれど僕は、最近なんでも家内に話すようにしてから、物事がずいぶんスムーズにまわりはじめていることを思い出しました。そうだ。そうしよう。

僕は階下に降りると、家内に思いの丈をすべて話してみました。

今僕はひどく疲れている。というのも、午前中は全力で仕事をやって、午後はお昼を食べてすこし昼寝をして散歩をして掃除をすると、いつも夕方の勉強の時間にはひどく疲れてしまうんだ。けれど勉強を夜に持ちこしたくないし、この時間にやる習慣をつけたいから、今は疲れていてもがんばろうと思っている。だからさっきの相談は、内容がどうこうというよりも、今はまともに考えられないし正確な答えを導くことができるとは思えない。そういうことなので、わるいんだけどまた後で話したいんだけど、どうかな。

僕の心はやはりすこし弱っていたので、わずかに声が震えてしまったけど、一息に思ったことを伝えられたし、家内も誤解なく理解してくれたようでした。

家内に思いを伝えたことで、僕は暗闇や物語に逃げこまなくても心の平穏を取りもどすことができました。

人は疲れていると、「自分が大切な相談ができないくらい疲れている」ということすら認識することができないのかもしれません。「今は疲れているから後で話そう」と提案することすらできないのです。

少なくとも僕は、そういう生き方をしてきてずいぶん苦労をしていたのかもしれません。

人間には、心で思っていることと反対のことを口走ってしまう不可思議があります。

あるいは、そんなつもりはないのに攻撃的になってしまう瞬間や、なぜか大切な人を傷つけている自分を見つけたりします。

お互いに身を寄せたいのに、近づきすぎると傷つけあってしまうことを「ヤマアラシのジレンマ」と呼んだりしますが、どこかそれに似ているように思いました。

年齢や関係、そのときの境遇や健康状態などによって一概には言えませんが、僕はこれからも、自分と大切な人に対して正直でいたいと思いました。

本当は誰だって、世界中のみんながしあわせで、笑って暮らしていればいいと思っているのに、今日も誰かが誰かに傷つけられています。

傷つけているのは、どこかの戦場や憎しみのスピーチではなく、僕やあなたかもしれません。

自分や世界に対して正直でありつづけることは、なかなかむずかしいけれど。